保湿剤による乾燥季節のスキンケア
保湿が必要な乾燥の時期になりました。
この季節になると体が乾燥しかゆみが出てくることも多く、皮膚科では皮脂欠乏性湿疹と呼ばれる湿疹が増えてきます。
美容としても乾燥小皺の原因にもなります。
よく報道番組からのご依頼でお話しさせている内容でもあるため、ブログに掲載しておきます。
皮膚科専門医の葉山愛弥です。
バリア機能を守るための保湿と入浴・加湿のポイント
気温や湿度が低下する季節になると、肌のバリア機能は弱まり、外的刺激や水分の蒸発によって乾燥やかゆみが起こりやすくなります。特に秋から冬にかけては皮脂分泌も減少するため、皮膚表面を保護する力が低下し、化粧水をつけてもすぐにつっぱる、粉をふく、ヒリヒリするなどのトラブルが増えてきます。この時期に大切なのは、肌に「水分を与える」ことではなく、「水分を逃さない」環境を作ることです。そのポイントとなるのが、セラミドとヘパリン類似物質を中心とした保湿ケアです。
乾燥しやすい部位
乾燥しやすい部位には特徴があります。皮脂腺が少ない頬や目元、口周り、すね、手指などは、皮脂による天然の保護膜が形成されにくく、外気の影響を受けやすい傾向があります。特に顔の中でも頬や口周りは、皮脂腺がTゾーンに比べて少なく、また皮膚が薄いため、水分の蒸散が起こりやすい部位です。加えて、季節の変化や暖房による乾燥環境下では、皮脂腺の活動自体も低下し、皮脂膜の形成が不十分になります。また、年齢とともに膝下の皮脂腺が減少することが知られています。
こうした「皮脂の減少」と「バリア機能の脆弱化」が重なることで、冬場の肌は一層乾きやすく、赤みやかゆみといった炎症反応を起こしやすくなるのです。
保湿の成分
セラミドは、角層の細胞のすき間を埋めるように存在する脂質で、外部刺激から肌を守りながら水分を保持する働きを担っています。皮膚科的には、角質の保湿はセラミド、皮脂、天然保湿因子の3つで保湿、バリア機能を保っています。乾燥肌や敏感肌の人ほどセラミド量が低下していることも知られています。化粧品や保湿剤に配合されるセラミドには、ヒト型、天然型、合成型などの種類がありますが、中でもヒト型セラミド(バイオセラミド)は皮膚との親和性が高く、低刺激で保湿効果が持続しやすいのが特徴です。乾燥しやすい頬や目元、口周りなどに重点的に使用すると、肌のつっぱり感や粉吹きを防ぐことができます。
一方、ヘパリン類似物質は、医療現場でも使用される保湿成分で、水分保持に加えて血行促進や抗炎症作用を併せ持ちます。
乾燥によるかゆみや赤みが出ている方にも使いやすく、皮膚の炎症を鎮めながら潤いを補うことができます。乳幼児から高齢者まで幅広く使用でき、アトピー性皮膚炎や軽度の湿疹などにも用いられることがあります。
ヒルドイドやヘパリン類似物質ローション、クリームは、皮膚科でよく処方される代表的な保湿剤で、バリア機能が低下した肌にもなじみやすいのが特徴です。
さらに、乾燥が強い時期には、セラミドやヘパリン類似物質に加えてシアバターやスクワランといった油性成分を取り入れると、保湿の持続力が高まります。シアバターはシアの木の実から得られる植物性油脂で、人の皮脂に近い組成を持ち、肌の上に薄い保護膜を形成します。水分の蒸発を防ぐ効果があります。スクワランは深海鮫由来または植物由来の安定化された炭化水素で、皮膚とのなじみがよく、酸化しにくいため敏感肌にも使用しやすい成分です。これらの油性保湿成分は、セラミドやヘパリン類似物質で補った水分をしっかり閉じ込め、乾燥から肌を守る「蓋」の役割を果たします。
特に夜間のケアや、冷暖房による乾燥環境下でのスキンケアに取り入れると効果的です。
保湿成分の役割の違いと使い方
セラミドとヘパリン類似物質は、それぞれ得意な領域が異なります。セラミドは肌構造を「補う」ことでバリア機能を強化し、ヘパリン類似物質は肌の「潤い環境を整える」ことで修復を促します。そしてシアバターやスクワランは、その保湿を長時間持続させる「保護膜」として機能します。
両者を組み合わせて使うことで、水分と油分のバランスが整い、乾燥しやすい季節でもしっとりとした肌を維持できます。
乾燥を避けるために
また、乾燥を避けるには入浴と室内環境の整え方も重要です。寒い季節はつい熱いお湯に長く浸かりたくなりますが、40℃を超える湯温は皮膚のセラミドや皮脂を洗い流し、バリア機能を低下させてしまいます。入浴は38〜40℃程度のぬるめのお湯に10〜15分程度が理想的です。洗浄剤は低刺激のものを選び、ゴシゴシこすらず優しく泡で洗うようにしましょう。お風呂上がりの肌は水分が蒸発しやすいため、タオルで軽く押さえるように水気を拭き取り、できれば5分以内、少なくとも20分以内に保湿剤を塗布することが大切です。入浴後すぐの保湿は、バリア機能を守るうえで最も効果的であり、衣類を切る前にさっと保湿するな良いタイミングといえます。
さらに、乾燥対策はスキンケアだけでなく室内の湿度管理も欠かせません。冬場は暖房によって湿度が30%以下に下がりやすく、肌の水分が空気中へ奪われてしまいます。加湿器を活用し、室内湿度を50〜60%前後に保つことで、角層の水分蒸散を防ぎ、保湿剤の効果をより長く持続させることができます。寝室やリビングなど、長時間過ごす場所に設置すると、肌だけでなく喉や粘膜の乾燥予防にもつながります。
乾燥の時期にやりがちな間違いとして、化粧水をたっぷりつけた後に保湿剤を省略したり、皮脂の少なさを気にして過剰に洗顔したりするケースがあります。油分を補わないと蒸発に伴って乾燥が助長されたり、過剰な洗顔はかえって角層のバリアを壊し、乾燥を悪化させる原因になります。
スキンケアの基本は、「洗いすぎない(洗わないのも皮脂汚れなどが落ちないため、洗顔はしましょう)」「保湿を欠かさない」ことが大切です。
季節の変わり目は、肌が最も不安定になる時期でもあります。セラミドとヘパリン類似物質、そしてシアバターやスクワランといった油性保湿成分をうまく取り入れて、バリア機能を整えながら、外的刺激に負けない肌にしましょう。
加湿器による湿度管理と適切な入浴習慣、そして毎日の丁寧な保湿が、冬を快適に乗り切る最も確実な方法です。
当院でもシアバター、スクワランの入った大容量保湿剤がありますので是非ご活用ください。